【コラム】旅館業許可申請で求められる「建築士/建築基準法の確認書」とは?その必要性も含めて解説

旅館業の営業許可を取得する際には、旅館業法や各自治体の条例で定められた設備基準を満たすだけではなく、建築基準法や消防法などの関係法令への適合についても確認が必要になります。
特に、戸建住宅や共同住宅など、もともと宿泊施設ではなかった建物を旅館・ホテルや簡易宿所として使用する場合には、保健所から、
「建築基準法上、旅館として使用して問題ないことを確認してください」
と求められることがあります。
自治体によっては、建築基準法への適合状況を確認するチェックシートや、建築士が作成する適合確認書などの提出を求めているところもあります。
今回は、旅館業許可申請において行われる建築基準法への適合確認について、その理由や手続き、注意点を解説します。
旅館業許可と建築基準法は別の法律
旅館業の営業許可は、旅館業法に基づいて保健所へ申請します。
ここで重要なのは、旅館業法上の許可要件と、建築基準法への適合性は、法律上は別の問題であるという点です。
旅館業法上の許可要件を満たしているのであれば、建築基準法に適合していないことだけを理由として、当然に旅館業許可を不許可にできるわけではありません。
実際、厚生省の過去の通知でも、旅館業の許可の可否は公衆衛生上の見地から判断すべきであり、建築基準法上の確認を受けていない建築物であっても、旅館業法上の要件を満たしている場合には許可すべきとの考え方が示されています。
ただし、これは、
「旅館業許可を取得すれば、建築基準法に違反していても営業してよい」
という意味ではありません。
旅館業法と建築基準法はそれぞれ別の法律であるため、旅館業許可を取得した後であっても、建築基準法に違反していれば、その違反状態について是正等の対象となり得ます。
つまり、
旅館業法上、許可できるか
↓
建築基準法上、その建物を旅館として適法に使用できるか
は、それぞれ別に確認する必要があるということです。
もっとも、実際の行政手続では両者を完全に切り離して処理しているわけではありません。
旅館業法上、建築基準法への適合が直接の許可要件とされているわけではありませんが、国の通知により、行政上の取扱いとして、旅館業の許可に先立って建築基準法への適合状況を確認する運用が求められています。
そのため、現在の旅館業許可申請では、自治体から建築基準法への適合状況を確認するための書類の提出を求められるケースがあります。
なぜ建築基準法への確認が必要なのか
大きな理由は、住宅と旅館では建築基準法上の取扱いが異なるためです。
たとえば、それまで「一戸建ての住宅」として使用されていた建物を旅館業に転用する場合、建築基準法上の用途は、原則として「ホテル又は旅館」として取り扱われます。
宿泊施設は、不特定多数の人が就寝する建物であるため、住宅と比較して、防火・避難などについて異なる基準が適用されることがあります。
つまり、
「現在住宅として問題なく使用できている建物だから、そのまま旅館としても使える」
とは限らないということです。
旅館業を始める場合には、旅館として使用した場合に適用される建築基準法上の規定を改めて確認する必要があります。
「建築基準法への確認書」とは?
自治体によって名称や手続きは異なりますが、旅館業許可申請の際に、建築基準法への適合状況を確認する書類の提出を求められることがあります。
代表的なものが、
- 建築基準法への適合状況を確認するチェックシート
- 建築士による適合確認書
です。
チェックシート方式の場合には、建物の用途や構造、避難、防火など、自治体が定めた項目について適合状況を確認し、その結果を提出します。
一方、自治体によっては、建築士が建物の状況や図面等を確認し、建築基準関係規定への適合状況を確認したうえで、適合確認書を作成することを求めています。
ただし、全国一律で同じ名称・同じ様式の確認書が存在するわけではありません。
自治体によって具体的な書式や確認方法は異なりますが、実務上は、チェックシートの提出または建築士による適合確認書の提出を求められるケースが多く見られます。
そのため、旅館業許可申請を行う場合には、対象となる自治体がどのような書類を求めているかを事前に確認することが重要です。
200㎡以下なら建築基準法の確認は不要?
ここは特に誤解されやすいポイントです。
既存建物をホテル又は旅館へ用途変更する場合、一定規模を超える用途変更については、建築基準法上の確認申請が必要になります。
ホテル・旅館等の特殊建築物への用途変更については、用途変更する部分の床面積が200㎡を超える場合、原則として建築確認の手続きが必要になります。
一方、200㎡以下の場合には、用途変更に伴う建築確認申請が不要となるケースがあります。
しかし、
「建築確認申請が不要=建築基準法を守らなくてよい」
という意味ではありません。
建築確認申請が不要であっても、実際にホテル又は旅館として使用する以上、適用される建築基準法上の規定には適合している必要があります。
したがって、
200㎡以下だから建築の確認は何もしなくてよい
という判断は危険です。
むしろ小規模な戸建住宅などを旅館業へ転用する場合こそ、確認申請という正式な審査手続きがない分、事前に建築基準法への適合状況を確認しておくことが重要になります。
具体的に何を確認するのか
実際の確認事項は、建物の規模、構造、所在地、既存の用途、使用方法などによって異なります。
一般的には、次のような項目が確認の対象となります。
1.用途地域
まず、その場所でホテル又は旅館という用途が認められているかを確認します。
用途地域によっては、そもそもホテル・旅館を建築・使用することができません。
旅館業法上の設備基準をすべて満たしていたとしても、用途地域上ホテル・旅館として使用できなければ、その物件で旅館業を適法に営むことはできません。
そのため、旅館業を検討する場合には、物件選定の初期段階で用途地域を確認しておくことが重要です。
2.接道
建築物の敷地が、建築基準法上の道路に適切に接しているかどうかも確認事項の一つです。
特に古い戸建住宅などでは、現行の建築基準法上の道路や接道に関する確認が必要となる場合があります。
また、建物の規模や用途などによっては、条例等による追加の基準が関係することもあります。
3.防火・避難関係
住宅から旅館へ用途が変わることで、防火や避難に関する規定の確認が必要になります。
たとえば、
- 廊下
- 階段
- 出入口
- 防火区画
- 内装制限
- 非常用照明
- 排煙設備
などが確認事項となることがあります。
どの規定が適用されるかは、建物の規模や構造、階数、使用する部分などによって異なります。
特に既存の戸建住宅を旅館業に転用する場合には、住宅として建築された当時には問題のなかった部分が、旅館として使用することによって新たに確認対象となることがあります。
4.確認済証・検査済証
建物が建築確認を受けて建築されたものである場合には、
- 確認済証
- 検査済証
- 建築確認申請図書
などを確認することがあります。
これらの資料から、建物がどのような用途・構造・規模で建築されたのかを確認します。
また、既存建物の現況が、当初の建築確認申請図書と一致しているかどうかも重要です。
増築や間取り変更などが行われている場合には、その内容について追加の確認が必要になるケースがあります。
検査済証がない建物でも旅館業はできる?
築年数の古い建物では、
「確認済証が見つからない」「検査済証を取得していない」
というケースも珍しくありません。
この場合、直ちに旅館業ができないと決まるわけではありません。
ただし、建物がどのような状態で建築され、その後どのような増改築等が行われてきたのかを確認する資料が少なくなるため、建築基準法への適合状況を確認する作業が非常に難しくなることがあります。
自治体や建物の状況によっては、
- 建築計画概要書
- 台帳記載事項証明書
- 当時の建築確認図面
- 現況図面
- 建築士による現地調査
などを利用して建物の状況を確認することになります。
場合によっては、建築士による詳細な調査や図面作成が必要となるため、できるだけ物件を購入・賃借する前の段階で確認しておくことをおすすめします。
建築士による入念な調査が必要になることも
建築基準法への適合状況は、書類だけで簡単に判断できるとは限りません。
特に、
- 古い建物
- 増改築の履歴がある
- 検査済証がない
- 現況と建築確認図面が異なる
- 旅館への用途変更に伴って改修が必要
といった物件では、建築士による入念な調査が必要になる可能性があります。そのため、旅館業許可申請を行政書士へ依頼した場合でも、建築基準法への専門的な適合判断については、別途建築士へ調査を依頼することになります。
そのため、旅館業許可の費用を検討する際には、行政書士への許可申請費用だけではなく、物件によっては建築士への調査費用や改修費用が発生する可能性についても考えておく必要があります。
自治体によって確認方法が違うので注意
旅館業許可申請における建築基準法への確認方法は、自治体によって異なります。
ただし、実務上は大きく分けると、
- 建築基準法への適合状況を確認するチェックシートを提出する
- 建築士による適合確認書を提出する
といった方法が多く見られます。
また、同じ東京都23区内であっても、使用する様式や確認項目、必要となる資料などが同じとは限りません。
そのため、「別の区ではこの方法で許可申請できたから、今回も同じだろう」と考えて手続きを進めるのはおすすめできません。
物件所在地を管轄する保健所等に、どのような書類が必要となるのかを事前に確認しておくことが重要です。
物件契約前の確認がおすすめ
旅館業を始める場合、建築基準法への確認を許可申請直前まで後回しにするのはおすすめできません。
物件を契約してから調査した結果、
「ホテル・旅館として使用することができない」
「想定していなかった改修工事が必要」
「建築士による追加調査が必要」
と判明すると、事業計画そのものに大きな影響が出る可能性があります。
そのため、理想的には、
物件選定
↓
用途地域・建築関係の一次確認
↓
保健所及び消防法への旅館業事前相談
↓
必要に応じて建築担当部署・建築士へ確認
↓
工事・許可申請
という流れで進めるのが安全です。
特に、旅館業を前提として物件を購入する場合には、契約後に建築上の問題が判明すると大きな損失につながる可能性があります。
できるだけ契約前に、旅館業法だけでなく、建築基準法や消防法についても確認しておくことが重要です。
まとめ
旅館業法上の営業許可と、建築基準法への適合性は、法律上はそれぞれ別の問題です。
そのため、建築基準法に適合していないことだけを理由として、当然に旅館業許可が取得できないという関係ではありません。
一方で、旅館業許可を取得したからといって、建築基準法に適合していない建物をそのまま使用してよいわけでもありません。
旅館として営業する以上、建築基準法をはじめとする関係法令についても、それぞれ適法な状態にしておく必要があります。
また、旅館業法上、建築基準法への適合が直接の許可要件とされているわけではないものの、国の通知により、行政上の取扱いとして、旅館業の許可に先立って建築基準法への適合状況を確認する運用が求められています。
このため、実際の旅館業許可申請では、自治体によって、
- 建築基準法への適合状況を確認するチェックシート
- 建築士による適合確認書
などの提出を求められることがあります。
特に、既存住宅を旅館・ホテルや簡易宿所へ転用する場合には、建築基準法上の用途が「ホテル又は旅館」となるため、住宅として使用していたときとは異なる規定について確認が必要になることがあります。
また、200㎡以下で建築確認申請が不要となる場合でも、建築基準法への適合自体が不要になるわけではありません。
旅館業は、物件を契約した後になって建築上の問題が判明すると、予定外の改修費用が発生したり、場合によっては営業そのものが困難になったりする可能性があります。
そのため、旅館業を検討する際には、できるだけ物件契約前の段階から、旅館業法・建築基準法・消防法をそれぞれ確認しておくことが重要です。
当事務所では、東京都を中心に旅館業許可申請のサポートを行っております。
旅館業法その他関係法令に関する具体的な確認、行政窓口への確認、図面をもとにした詳細な可否判断についても対応しておりますので、旅館業の開業をご検討されている方はお気軽にご相談ください。
※建築基準法・消防法等について専門的な調査・判断が必要となる場合には、建築士・消防設備士等の専門業者による別途調査や費用が必要となる場合があります。
